2022年度

原賠審中間指針第五次追補公表にあたっての声明

原賠審中間指針第五次追補公表にあたっての声明

 原子力損害賠償紛争審査会(以下、「原賠審」という。)は、2022(令和4)年12月20日に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。2011(平成23)年8月5日公表)の第五次追補(以下「中間指針第五次追補」という。)を決定、公表した。中間指針については第一次追補から第四次追補が公表されているが、中間指針第五次追補は実に約9年ぶりの追補となる。
 中間指針第五次追補は、生業訴訟を含む7つの集団訴訟において損害賠償についての各高裁判決が確定したことから、これら確定判決を調査検討した専門委員の報告を受けて決定されたものである。そして、「過酷避難状況による精神的損害、生活基盤の喪失・変容による精神的損害、相当量の線量地域に一定期間滞在したことによる健康不安に基礎を置く精神的損害、自主的避難等に係る損害等」について、「指針に加えて損害の範囲を示す」として、従前は原賠審で考慮されてこなかった損害項目を加えるなど、追加・増額が示されている。
 これまで、上記7つの集団訴訟の原告らをはじめとする被害者や被災自治体等は、従前の指針による賠償が被害実態に見合っていないことを批判し、その見直しを粘り強く求めてきた。今回の中間指針第五次追補の発表は、こうした訴訟や運動等の一つの成果であると言うことができる。また、追加・増額を示したことも、前進と評価できる。
 しかし、これまでの9年間、原賠審は「集団訴訟の判決が確定しておらず、(指針見直しの)時期が熟していない」などとして、指針の見直しを怠ってきた。原賠審は、原子力事故の被害者を早期に救済するために、訴訟等の法的手続によらない「当事者の自主的紛争解決の目安」を示すことを目的としており、中間指針が原子力事故から5か月足らずの間に策定されていることを考えれば、被害の広がりや深刻さを早期にかつ詳細に調査し、司法判断の確定を待つことなく指針の見直し作業を行うことは十分に可能だったはずである。この9年間に、被害者の少なくない方が死亡し被害に関する資料が散逸してしまうなどの事態が進行していることを考えれば、中間指針第五次追補は、「司法判断の後追い」となっており、あまりにも遅きに失したと言わざるを得ない。
 また、中間指針第五次追補が新たに追加した賠償費目や増額した金額を見ると、7つの集団訴訟の確定判決がそれぞれ認容した金額の水準から相当の減額がなされている。各判決の水準には差異があること、中間指針はあくまで「自主的解決の目安」であることなどを考えれば、減額自体はやむを得ないとの見方もある。しかし、確定判決はいずれも被害者の声を直接に聞きまた被害現地を実際に見聞した上での判断であるのに対し、原賠審はこうしたプロセスを十分に踏んでおらず、減額する正当性はないと言わざるを得ない。特に、生業訴訟は、居住地域を異にする多くの原告が、「被害者らが共通に被った被害」の最低限一律請求をしたものであり、確定判決は、原告らの居住地ごとに一律の金額を認容した。これは、「(被害の現われ方や程度に関わらず、ある地域に居住していた)被害者らが共通に被った被害の最低限」を司法が判断したものであり、中間指針第五次追補が、生業訴訟の確定判決を下回る水準を示したことは、「自主的解決の目安」としても極めて不十分であり、まことに遺憾である。また、生業訴訟確定判決は、従前の指針では賠償対象とされていなかった地域についても一律の賠償金額を認容しているが、中間指針第五次追補では、これらの地域については言及すらされておらず、この点も不十分との評価を免れない。

 わたしたち原告団・弁護団は、原賠審に対し、原子力事故の被害者らの早期救済のため、1司法判断の確定を待つという消極的な態度を捨てて自ら被害実態の全体像を改めて詳細に調査すること、2その調査の結果を踏まえて、これまでの司法判断の水準が被害実態に見合ったものであるかを真剣に検討し、司法判断の水準にとらわれずに、現実の被害実態に見合った指針の見直しに着手することを強く求めるものである。また、生業訴訟は判決確定により終了した第一陣訴訟に続き、現在第二陣訴訟が福島地方裁判所に係属中であり、ここでは、本年6月17日の最高裁判決が認めなかった原子力事故についての国の責任を主張している。原子力事故についての国の法的責任を明らかにすることは、事故の再発防止にとって極めて大きな意味を持つものであるが、それにとどまらず、国及び東京電力の重大な過失が損害の評価に際しても十分に考慮される必要があることは言を俟たない。
 わたしたち原告団・弁護団は、これからも国及び東京電力の重大な過失責任を明らかにし、事
故の再発防止や被害者の全面救済を実現するために、尽力していく決意である。

2022(令和4)年12月23日

「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟原告団
同 弁護団


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